アメリカ人はエモーショナル。
こないだ、何となくで見てた番組の話なんですけど。
その番組の舞台はアメリカ。車のカスタムショップが出てきて、その店の仕事に密着するみたいな内容だったんですよ。特にそういうのに興味があるわけでもないんですけど、付けたらやってた、くらいの感じでまぁ見てたんですよ。
途中から見始めたんでよく分かってなかったんですけど、見ていくうちにね、とある女性から受けた「夫の誕生日にカスタムカーをプレゼントしたい」っていう依頼に取り掛かっているらしいことが分かって、カスタムショップのメカニックたちが「いっちょやったりますか!」ってな感じで頑張ってる様子が映ってたんです。
まぁこういうのって、結構見てたら楽しめるじゃないですか。工場見学じゃないですけど、製作現場って頻繁に見る機会のあるものじゃないですし、「へぇーこうやって造るんだー」ってな感じでそのまま見続けちゃったわけです。
するとね、メカニックの中のエンジン担当が、エンジンを組み上げて言うんですよ。
「こいつはパワフルだから、加速力は6倍だ!」
もうザ・アメリカ。正しい英語で言うならジ・アメリカですよ。ちょっと何と比べて6倍なのかよく分かんなかったんですけど、とにかく6倍なんですよ。パワフルは正義なんです。男もそうでしょう。一般男性と6倍男性なら、6倍男性の方がモテるはずです。何が6倍かって? い、言わすんじゃないよ!///
そんなこんなで映し出されるエンジン。詳しくないんでそれが普通と比べてどうなのか、全く分かんないんですけど、6倍って言うもんだから凄く見えるわけです。ワクワクするわけです。そいつを乗せた車が一体どんな走りを見せるのか、期待させられちゃうわけなんですよ。
でね、そのエンジンを取り付けようとしたんですよ。
入んないんですよ。
エンジン担当が6倍にしちゃうから、想定の入れ方ではエンジン入らない大きさになっちゃってたんです。「え、そういうのって入るように設計するんじゃないの?」って思ったんですけど、アメリカって自由の国ですからね。女神の加護もありますからね。国民も自由なんですね。多分。
でも、せっかく作ったエンジンです。これを作るのにきっと何日もの時間がかかったことでしょう。エンジン担当の6倍へのこだわりも強いはず。メカニック達はこの入らなかったエンジンをどうにかしようと試行錯誤を始めたんです。
しばらくして、そのメカニック達のリーダーみたいな奴が言ったんですよ。
「何とか無理矢理入りました。」
あっ、入ったんだ。
てか無理矢理でいいんだ。そういうのって、ちゃんと位置とか決めておくとかじゃないんだ。すげぇなアメリカ。こういう大胆で豪快なところが、日本人にはない魅力ではないですかね。
ともかくこれで6倍エンジンが搭載されたわけで、微調整が入った後に早速エンジンをかけたんです。すると見事なうなりを響かせ始めるエンジン。これにはメカニック達も大喜びで、ハイタッチしたりハグしあったりと思い思いの感情表現をし始めます。ハイタッチは良いけど、おっさん同士のハグは僕ちょっと専門外ですね。特定の女性層には受けそう。
しかしそんな喜びも束の間。
エンジン、急に止まったんですよ。
さっきまでの笑顔が消え失せ、困惑顔になるメカニック達。その原因を究明しようと「電気系統のせいじゃないか」とかあれこれ推測しだすんですけど、したらしたで「おれの組んだ回線は完璧だ!」とかでケンカが始まるんですよ。おいお前ら、さっきまでのハグはどうしたと。今にも殴り合いとか始まりそうじゃねぇかと。
乙女心もびっくりなムードの急変に、見てるこっちはハラハラドキドキですよ。何となくで見てたのに、何だかんだで見入っちゃってるんですよ僕。
6倍のエンジン作って自慢げなあいつとか。
そんなエンジンをムリヤリ車に詰め込んだリーダーとか。
そんな無茶苦茶だけど、仕事に一生懸命なメカニック達のあの笑顔が戻ってきてほしいんですよ。早く、早くエンストの原因を突き止めて、またみんなで喜び合ってほしいんですよ。そんな気持ちになるくらい、彼らは僕の心を掴んでしまったのです。
そんな僕の願いを叶えるかのように、エンストの原因が判明します。
またあのリーダーが、それを教えてくれました。
「ガス欠でした。」
おいふざけんな。