素直になれなくて

中学生のころ、僕を含めた男子4人で交換ノート的なことをやってまして。

 

 

 

男がノートでやり取りするなんて今考えたら変な気もしますが、まぁそのノートは当初、自分で考えた詩だったりとか、架空の歌の歌詞を書いてたんです。

 

ちょっと前に「中二病」って言葉が流行ったじゃないですか。あれに通ずる感覚というか、僕らも自分の創作物を内に秘めずに外に出したい誰かに見せたいっていう欲があったんでしょうね。まぁとにかく4人でそのノートを書いて回してたんですよ。

 

 

 

といっても、中学生のやることです。最初は真面目にみんな詩を作ってたんですけど、回ってくる度に創作するなんていう持久力はないわけです。

 

 

 

なんとか1冊書き終わって、2冊目に入る当たりで創作の体力が切れたのか、ノートの様相が変わってきたんです。その中でも一人、いつの間にか架空の漫才コンビを作って、そのネタを書き始めたヤツがいたんです。

 

そのネタのひとつをご紹介しましょう。

 

 

 

 

 

A「あーゴミに目が入った!」

 

B「すげぇなお前!」

 

 

 

 

 

まぁ、こんな感じなんですけど。

 

 

 

ちなみにAとBっていうのはノート回しメンバーのハンドルネーム的なもので、のちにAとBは仲違いを起こし解散。Aはまた別メンバーのCとコンビを組み直すも上手くいかず、限界を感じていたところにBが帰ってくるもBの名前を忘れる、というなかなか手の込んだストーリーが展開されていきました。あ、ノート内の話ね。現実でAとBは漫才なんてやってないからね。

 

 

 

 

 

面白かったんですよ。それ。

 

 

 

結構毎回、楽しみにしてたんですけどね。

 

 

 

 

 

Dである俺が一切登場しないの。

 

  

 

 

 

 おい待てと。

 

 

 

おまんら誰かぁお忘れじゃありませんかと。このノートは何人で回しちょるのかって話しですよ。気付いたらAとBのステージにCが友情出演してるのを、観客として観てるDが俺なんですよ。おかしいやろがいと僕は憤慨します。これ用のノート買ってきてるの俺だったからね。これ重要ね。

 

そして僕が登場しないままにAがBの名前を忘れる、っていう大オチまで辿り着いちゃってるもんだから、疎外感が半端ないんですよ。いつの間にかノート内で3人キャッキャウフフしてて、僕金払ってるじゃないですか。なんなんこれと。

 

 

 

 

でもね。ここですぐに「混ぜてほしい」と言わないのが僕です。だって「なんで俺を登場させないんだ」なんて言ったら、角が立っちゃうじゃん。

 

 

 

 

 

なのでね。

 

 

 

僕も架空のコンビ作ったんですよ。

 

 

 

 

 

漫才に対抗して、こっちはノート上でショートコントさせてね。こうやってアプローチすることによって角を立たせず、暗に僕の登場を促すという、なんともスマートなやり方。ちなみにコンビ名は「テクニカルサイエンス」。ちょっと口に出して言ってみて。そこそこ語感良くないっすか?

 

さぁ、これで後はあっちの漫才を軸としたストーリーに僕が登場するのを待つだけです。もうね、次にノートが自分に回ってくるのが楽しみで仕方ないんですよ。どんな登場するのかなぁとか、期待に胸を膨らませて待ってたわけです。

 

 

 

 

 

そしてまた僕のところに回ってくるノート。

 

 

 

ドッキドキで漫才のページを見たんです。

 

 

 

 

 

が登場してるんです。

 

 

 

 おいふざけんなと。

 

 

 

Tはノート回しのメンバーではないクラスメイトで、ちょっと抜けてるところが面白いキャラなんです。その実力を買われてのサプライズ出演。何だったら友情出演だったCとTがコンビを組むというスピード出世までするんです。これには僕も目の前が真っ暗。手持ちのポケモンがみんな瀕死になったのかと思いました。

 

 

 

でもね。 よくよく考えてみると、今回僕が登場しなかったのって必然なんですよ。

 

 

 

僕、一人で「テクニカルサイエンス」とか言ってやり出してるじゃないですか。それみたら「あ、あいつは一人でやっていくんだな」って思われるわけなんですよ。架空の設定とはいえ、あっちは実在の人物でやってるけど、こっちはそれすらも架空ですからね。一人遊び突然始めたみたいなもんなんです。

 

これに気が付いた僕は、漫才を書いていたAに言いに行きました。

 

 

 

 

 

「混ぜて」と。