千年の盾

皆さんは『千年の盾』をご存じだろうか。

 

 

 

『千年の盾』とは遊戯王のモンスターカードで、攻撃力は0だが守備力は3000である。このカードが出た初期の頃では破格の守備力を誇り、同じく初期に最強と謳われた、かの有名な『ブルーアイズホワイトドラゴン』でも倒せないカードとなっている。

 

ただ、別に強いわけじゃない。なんてったって攻撃力は0だ。『千年の盾』と言うくらいだから、千年間ずっと盾だったんだろう。途中でレベルが上がって、「ステータス割り振れますけど…どうします?」みたいな状況があっても、「自分、盾なんで。」とかいって頑なに守備力に振ったのではないか。

 

 

絶対『鉄道員』見てるわこの盾。

 

 

あのエジプト感出てる目の模様で見てるわ。

 

 

しかも高倉健へのあこがれもあって、口調がぽっぽやのそれになっちゃってるね。そりゃあ頑なにもなるわけだ。…あれ、千年前にこの映画無かったはずでは?

 

ともかくそんな男気のある『千年の盾』の話をなんでしたかと言うと、思い出したからなんですよね。というのも、小学生の頃にちょっとした思い出があって、それを年一ぐらいの頻度で思い出すたびに、この『千年の盾』を思い出すわけです。

 

 

 

ある日ね、下校中に同じ学校の女子と男子がケンカしてたんですよ。

 

 

 

女子の方は僕の同級生で数人、男子の方が一つ下の学年の、悪ガキ中の悪ガキだったんです。どうやらその悪ガキが女子グループのうちの1人を泣かせたらしく、それで他の女子が怒ってたんです。たまたま出くわした僕は、「お、やってるやってる」みたいな感じでその場の野次馬となったわけです。

 

激しく責め立てる女子の罵声に、一切悪びれる様子のない悪ガキ。それもそのはず、悪ガキはここいらじゃあ名の通った悪ガキだったんです。もうすでに悪ガキとしての勲章を手に入れてるんです。そんな悪ガキが女子に怯むもんなら、悪ガキから普通のガキへのランクダウンを許すわけです。こんな名声を手放すことなど、悪ガキがしようはずもありません。

 

 

女子の罵声は次第にエスカレートしていきます。

 

 

それでも悪ガキは一切相手にしません。

 

 

確かに悪いのは悪ガキ。しかしながらその悪ガキの立ち振る舞いに、なぜか心躍る僕がいたのも事実。なんて男らしいんだと。このまま女子たちをギャフンと言わせてくれと肩入れしていきます。まぁ悪ガキと言っても、普通に一緒に遊んだことあるので元からそっち側だっただけなんですけどね。

 

 

そんな傲岸不遜の悪ガキに対して、女子はついに言い放ちます。

 

 

 

「あんた、人としてどうかしてるよ!」

 

 

 

この「人間性を責める」という最終手段。豆腐メンタルの中でも絹属に分類されている僕だったら、女子+人格否定で一発KOだったでしょう。もう心が冷ややっこ。醤油かけて食べられたいくらいにこの場から消えたくなったに違いありません。

 

 

そんな破壊力を持った罵声に、悪ガキはどうするのか。

 

 

固唾をのんで見守る僕。

 

 

すると悪ガキは突如として中腰の態勢をとり、

 

 

手のひらを顔の前に掲げ、

 

 

 

「千年の盾!!!」

 

 

 

と言い放ったのです。

 

 

 

いやぁ、感動したね。

 

 

 

だってここでの『千年の盾』ですよ。女子の持ちうる最強の攻撃手段を、見事に受け切ったんですよ。わざわざポーズまで決めて。果たしてこのポーズで盾を連想できるかどうかは分かりませんけど。

 

いや女子の猛攻も見事なものでした。普通の女子が最も使う「先生に言いつける」というワードを、悪ガキ相手に使うことなくここまで戦ったのですから、これは称賛に値します。しかしながら… しかしながらここタイミングでの『千年の盾』はどうしようもない。だって『ブルーアイズ』でも倒せないんだもの。

 

さすが悪ガキ。経験してきた場数が違う。相手に攻撃させるだけさせてスタミナを奪い、とっておきの一撃を受けきることで戦意を喪失させる。パワースタイルでありながらも知略的な素晴らしい戦法です。自分の非を絶対に認めないという、強い意志がここに表れていますね。ただ女の子泣かすのは、大人になったらやめようね。

 

勝負は決まったようなもんで、僕は思わず「悪ガキの勝ち!」と叫びそうになりましたが、全くの部外者なのでそれを押し殺しました。それでもなんだか、悪ガキが『千年の盾』で勝利したことが清々しくてたまらない。限定のカードで持ってやしないし、持ってたとしてもデッキに確実に入れないだろうけど。だって使えないし。

 

 

 

そうしてケンカが終わりを迎えるかと思ったその時。

 

 

女子が言いました。

 

 

 

「なにそれ。意味わかんないんだけど。」

 

 

 

ですよね。